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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)119号 判決 1976年10月27日

原告

シンテツクス・エス・エイ

右代表者

エステバン・カウフマン

右訴訟代理人弁理士

浅村皓

小池恒明

被告

花王石鹸株式会社

右代表者

丸田芳郎

右訴訟代理人弁理士

宇野晴海

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上訴期間について附加期間を三月とする。

事実

<前略>

(特許庁における手続)

一、原告は片仮名で「ソンテツクス」と左横書きしてなる登録第八六二二八九号商標(昭和三九年七月四日第一類「化学品(他の類に属するものを除く。)薬剤及び医療補助品」を指定商品として登録出願、昭和四五年六月二五日登録。)について、昭和四五年九月一〇日その商標権者たる被告を相手取り、登録無効の審判を請求したところ、特許庁は、同年審判第八三九六号事件として審理し、昭和五〇年四月二日右請求は成り立たない旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をなし、その謄本は同年六月一四日原告に送達された(なお、出訴期間につき附加期間を三か月と定められた。)。

(審決の理由の要点)

二、審決は、右商標を、片仮名で「シンテツクス」と左横書きしてなる登録第六七〇四九三号商標(第一類「化学品、薬剤および医療補助品」を指定商品として、昭和三七年三月一六日登録出願、昭和四〇年三月一七日登録、昭和五〇年五月二六日更新登録。以下、「引用商標」という。)と比較して、両者は次のように外観、称呼および観念のいずれの点においても類似しないと認定して、本件商標の登録を無効にすべき理由がないとしている。

1  まず、両商標は、外観上、看者に強い印象を与える語頭部における「ソ」と「シ」との文字に一字画の差異があるにすぎないが、元来、片仮名文字は少ない字画により構成され、字画の増減、組合せによつて日常全く別異の字形として観察され、かつ、認識されているものであるから、「ソ」と「シ」とのような場合でも、これを明確に区別し得るものと判断され、したがつて、両商標は、第二字以下共通の文字部分の中間に位置する「ツ」の文字の配置個所相違があることと相俟つて互に紛れるおそれはないものと認められる。

2  つぎに、本件商標からは「ソンテツクス」、引用商標からは「シンテツクス」のいずれも五音からなる称呼が生じ、そのうち、第二音以下の四音を共通にし、語頭において「ソ」と「シ」との一音の差異があにすぎないが、「ソ」の音と「シ」の音とは、接続母音を異にするため、それ自体明確に聴別し得るばかりでなく、その差異は称呼の識別上重要な部分と認められる語頭にあるものであるから、両商標は、それぞれ全体として称呼しても、なお聴感に相異なるものがあり、称呼上互に紛れることがないものと認めるのを相当とする。

3  また、両商標は、いずれも特定の意味を有しない造語と認められるから、その観念上の異同を比較すべくもないところである。

4  なお、引用商標は、本件商標がその指定商品に使用された場合、その商品の出所について請求人(本訴原告)の業務にかかる商品との混同を生じるおそれがあるほど、周知著名なものとは証拠上、認め難い。

5  したがつて、本件商標法第四条第一項第一一号および同第一五号に該当するとはいえない。<以下省略>

理由

一前掲請求の原因事実中、被告に商標権のある登録商標について、審判の成立に至るまでの特許庁における手続、右商標及び引用商標の構成、指定商品及び登録年月日並びに審決の理由の要点に関する事実は当事者間に争いがない。

二そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて検討する。

1  まず、右に確定したところでは、本件商標は「ソンテツクス」の片仮名文字を、引用商標は「シンテツクス」の片仮名文字をそれぞれ左から横書きしてなるものであり、成立に争いのない甲第三号証によれば、本件商標は、別紙第一記載のとおりの外観を示し、語頭から第四文字目の「ツ」の文字が他の文字の二分の一程度の大きさであることを、また、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用商標は、別紙第二記載のとおりの外観を示し、語頭から第四文字目の「ツ」の文字が他の文字と同じ大きさであるが、その配列より一段下に配置されていることをそれぞれ認めることができる。原告は両商標が「ツ」の文字を前後の文字よりやや小さく、かつ、下げて配置している点で共通し、ただ、その下げる程度に多少の相違があるだけであると主張するが、右主張は、右認定に抵触する限度において、両意匠の外観を正確に捉らえたものということができないから、採用することができない。そして、右認定の事実によると、両商標は外観上看者に強い印象を与える語頭部において「ソ」と「シ」という文字の差異があり、後者は前者より字画が一つ多い。もつとも、その差は一字画にすぎないが、元来、片仮名文字は少ない字画で構成され、字画の増減、組合わせによつて日常全く別異の字形として観察され、かつ、認識されているものであるから、「ソ」と「シ」とのように一個の画の相違にすぎない場合でも、これを明確に区別し得るものであるから、両商標は、第二字以下共通の文字部分の中間に位置する「ツ」の文字の大きさ及び配置個所に前記のような相違があることと相俟つて、互に紛れるおそれはないと考えるのが相当である。原告は、両商標のように語頭の片仮名文字が一字画しか相違しない場合、これを比較するには、いきおい全体的直観によることになるのみならず、取引の実際上も、その程度の相違を無視して全体的直観で看るのが普通であると主張するが、右主張のような経験則の存在を認むべき証拠はないから、採用の限りではない。

2  つぎに、両商標を試みに読み上げてみると、本件商標からは「ソンテツクス」、引用商標からは「シンテツクス」のいずれも五音から成る称呼が生じ、そのうち、第二音以下の四音を共通にし、語頭において「ソ」と「シ」との一音の差異があるにすぎない。しかし、「ソ」の母音「o」は円唇奥舌半狭母音(口角が左右から中央へ引寄せられ、唇が前から見て円い形をとり、奥舌面が軟口蓋に向つてもち上がり、奥舌面と軟口蓋あるいは咽頭壁との間に作られるせばめ((細長い管状部)の強さは、狭母音に次ぎ、広母音、半広母音より強い。)であるのに対し、「シ」の母音「1」は張唇前舌狭母音(口角を左右に引き、唇が上下に開かれ気味となり、前舌面が硬口蓋に向つてもち上り、前舌面と硬口蓋との間に作られるせばめが最も強い。)であるから、「ソ」の音「シ」の音とはそれ自体明確に聴別し得るばかりでなく、その差異は聴者に強い印象を与え称呼の識別上重要と認められる語頭にあるものであるから、両商標は、それぞれ全体として称呼しても、なお聴感において相異なるものがあり、称呼上互に紛れることがないと認めるのが相当であつて、以上と相容れない原告の主張は排斥するほかはない。

3  してみると、本件商標と引用商標とを外観、称呼において類似しないとした審決は、その判断において正当であつて、これに原告主張の違法を認めることはできない。

三よつて、本件審決の違法を主張して、その取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

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